古物商の取引は不正品の危険性と隣り合わせです。本記事では不正品発見の着眼点と対応方法について解説します。

不正品発見の着眼点

不正品とは

不正品とは、古物営業法において「偽造品」や「盗品」を指します。
古物商が古物の「買取」「交換」「売却の委託を受ける」などの取引を行う際に、その物品が不正品である疑いがある場合には、直ちに警察に申告しなければなりません


古物営業法第15条3項
古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとする場合において、当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。


これは、古物営業法の目的が「窃盗その他の犯罪の防止およびその被害の迅速な回復に資すること」であるためです。
なお、この申告義務が課されるのは「買い受け時」や「交換・委託を受ける時」に限られ、売却時には課されません。



『誰に』『どのようなときに』申告するのか

不正品の申告義務においてポイントとなるのは「確実に不正品である」と断定する必要はなく、あくまで「疑い」があるだけで申告義務が生じるという点です。
不自然な点や不審な要素が確認できるときは、迷わず「110番」もしくは「所轄の警察署」に申告を行うべきです。



古物商が申告義務を怠った場合

古物商が申告義務に違反した場合、これを管轄する公安委員会は、必要な措置をとるよう「指示」を出すことができます。
さらに、この指示に従わなかった場合や、違反の程度が重大と認められる場合には、公安委員会は古物営業の「営業停止」を命じることができます。


古物営業法第23条(指示)
古物商若しくは古物市場主又はこれらの代理人等がその古物営業に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令又は他の法令の規定に違反した場合において、盗品等の売買等の防止又は盗品等の速やかな発見が阻害されるおそれがあると認めるときは、当該古物商又は古物市場主の主たる営業所又は古物市場の所在地を管轄する公安委員会は、当該古物商又は古物市場主に対し、その業務の適正な実施を確保するため必要な措置をとるべきことを指示することができる。


古物営業法第24条(営業の停止等)
古物商若しくは古物市場主若しくはこれらの代理人等がその古物営業に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令若しくは他の法令の規定に違反した場合において盗品等の売買等の防止若しくは盗品等の速やかな発見が著しく阻害されるおそれがあると認めるとき、又は古物商若しくは古物市場主がこの法律に基づく処分(前条の規定による指示を含む。)に違反したときは、当該古物商又は古物市場主の主たる営業所又は古物市場の所在地を管轄する公安委員会は、当該古物商又は古物市場主に対し、その古物営業の許可を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて、その古物営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。



古物商が不正品と知りつつ買取した場合

不正品と知りつつ買取をした場合、刑法256条2項盗品等有償譲受け罪に問われる可能性があります。


第256条(盗品譲受け等)
1.盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、3年以下の拘禁刑に処する。
2.前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金に処する。



不正品の見分け方

では、具体的な注意点について確認したいと思います。


人に対する着眼点

① 機械操作や価格への無知
明らかに商品の価値や使い方を知らず、詳しく説明されても理解が浅い場合。


② 落ち着きのなさ・会話の曖昧さ
動揺している、質問に対して返答が不明瞭な様子。


③ 所有物に対して不相応な身なりや職業
持ち込み商品の価格帯に比して、服装や所持品が乖離している。


④ 同一人物が頻繁・定期的に来店
短期間に何度も同じ人物が類似商品を持ち込む行動。


⑤ 遠隔地から来訪
住んでいる地域や活動圏から大きく離れた住所の人物。


⑥ 品触れ通知を受けた商品の持ち込み
警察から“盗品かもしれない”という連絡が既に届いている物品。


⑦提示された身分確認資料と本人の不一致
顔写真と比較して不自然・相違がある。


⑧署名や身分確認のサインが不自然
ぎこちない字や書きなれていないような筆跡。


⑨一人だけが店内に入り、他人が外待機
手下や共犯が周囲で状況を伺っている構図。


⑩ 商談を可能な限り素早く終えようとする
短時間で立ち去る意図が見られる。



物に対する着眼点

① 同種の商品を何度も持ち込む
同じモデル・ブランドを頻繁に持ち込む行動。


② 一度に大量の商品を持ち込む
盗品の可能性あり。


③ 新品・未使用・未完成品の持ち込み
古物営業の対象外を持ち込むことで不正な入手の疑義。


④ 製造番号が消されている・剥がされている
シリアル番号など識別情報を意図的に隠している。


⑤ 付属品が不足している物
本来備わるべき部品や箱・保証書などがない。


⑥ 名義と本人名が異なる付属品
ネーム入りアイテムの名義と持ち主が不一致。


⑦高級品なのに保証書がない
時計・ジュエリーなど、本来あるべき書類の不備。



上記で挙げたような確認点はあくまで一例ですが、これらに該当するような状況に遭遇した際には、「この商品は不正品かもしれない」という意識を常に持つことが重要です。



まとめ

不正品の申告義務は、古物商に課せられた数ある法的義務のうちのひとつです。
こうした義務を怠ることは、営業停止や許可の取消しといった行政処分のリスクに直結するだけでなく、事業全体の信用失墜や経営上の大きな損失を招く可能性があります。
日頃から古物営業法などの関連法令を正しく理解し、実務の中で義務を確実に遂行することが重要です。